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近年、東京オリンピック開催の影響もあり、スポーツ業界におけるAI活用推進の動きが強まっています。
2022FIFA W杯でも、AI技術によるVAR判定システムが活用されていました。
他にも、試合中・観戦・マネジメント・パーソナルトレーニングなど活用の範囲はとても広いです。
特に、画像認識やデータ分析は各種スポーツとの相性が良いため、今後さらなる普及が期待されます。
とはいえ、スポーツ×AIの具体的な活用事例について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、13個のAI活用事例を場面ごとに分けて(試合中・観戦・マネジメント・パーソナルトレーニング)徹底的に解説していきます。
また記事の後半では、AIに関連したビジネスを考えている方に向けて、「AIによるスポーツのこれから」を展望していますので、ぜひご一読ください。
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目次
なぜAIがスポーツで注目されているのか
政府のスポーツ庁は、日本にとってスポーツ産業を重要視しています。
市場を拡大していき利益をスポーツ環境の改善に還元し参画人口の拡大をすることで、スポーツ市場規模を2025年までに15兆円まで伸ばすことを目標に掲げています。
スポーツ産業は、飲食や旅行など他のビジネスと関わりが深く、AIを活用するシーンが多いことから注目されています。
AIをスポーツに活用するメリット
AIをスポーツに活用するメリットは次の2つです。
それぞれ解説していきます。
平等な判断ができる
スポーツでの八百長は多くの場合、審判の買収により行われています。そういったことが起こってしまっては、公平な試合ができなくなるのはもちろん、選手の努力や観客の応援も意味をなさなくなってしまいます。
また、自国チームだから、好きな選手・チームだからといったように、審判の私情が無意識の中で判断に影響を及ぼしているかもしれません。
AIによる審判は、試合相手同士を平等に見れます。
また、VARなど人間の目視よりも正確に判断ができるシステムがあることで、スポーツの公平性が維持されることでしょう。
精度が高く複雑な分析もできる
AIをスポーツに活用するメリットの二つ目は、「精度が高く複雑な分析もできること」です。
AIを活用すれば、人間が行うよりも高度で複雑な分析が可能です。そして、俯瞰的に見ることで従来では考えられなかった新しい概念など生まれるかもしれません。
選手にとってだけでなく、観客にとってもより盛り上がるシステムであったり、便利なシステムをさまざまな場面で活用できます。
AIをスポーツに活用するデメリット
AIをスポーツに活用するデメリットは次の2つです。
それぞれ解説していきます。
大量のデータを必要とする
AIをスポーツに活用するデメリットの一つ目は、「大量のデータを必要とすること」です。
AIによる分析を行う場合、元となるデータがあります。AI分析において、より精度の高い分析を行うためには大量のデータが必要になります。
そのデータの中には、個人情報などが含まれている場合があります。精度の高い分析ができる一方で、情報漏洩のリスクも発生してしまいます。
膨大なコストがかかる
AIをスポーツに活用するデメリットの二つ目は、「膨大なコストがかかること」です。
大量のデータも収集するだけでなく、運営しなければいけません。
データは日々増加していくので、すぐに容量が足りなくなってしまいます。その容量の保持と、情報漏洩のリスク対策としてデータの暗号化、安全なクラウドサービスでAI分析を行うなど運営のためにも膨大なコストは見逃せません。
スポーツの試合中にAIを活用する事例
スポーツの試合中にAIを活用する事例は次の3つです。
それぞれ紹介していきます。
自動ライン判定システム(テニス)
近年、テニスの試合ではカメラを使ったライン判定システムが普及してきています。現在では、テニスクラブやグランドスラムのようなプロ競技での導入が顕著に見られます。
人間の目視と比べて判定の精度が高く、多くの選手が肯定的な反応を示しているため、このまま定着していくと考えられるでしょう。
ソニーが開発した「ホーク・アイ」は、時速200kmを超えるサーブだとしてもボールがラインに入っているかどうかを2mmの誤差内で判定でき、公平性の高い試合を実現しています。
さらに、ボールをトラッキングした情報をもとに再現CGをわずか数秒で作成でき、観客にも可視化することで盛り上がるのは間違いないです。
一方で、懐疑や不満の声が見られるのも事実です。
ホーク・アイは、コート一面の導入に最低でも約650万円かかるとされており、グランドスラムの全コート分ともなればその費用は莫大なものになります。
このように、価格が高額であることから一般娯楽としてのテニス競技では導入が進まず、現状としても低価格帯の製品は市場に見当たりません。
また、このシステムはテニス以外にもサッカーやクリケットなどでも導入されており、これからさまざま競技でも普及していくことが予測されます。
採点支援システム(体操)
近年、体操競技では技の難易度向上により、審判の負担が増しているという課題が深刻化しました。
そこで、難易度の高い技に挑み続ける選手たちの演技を的確に採点するために導入されたのが「AI採点支援システム」です。
同システムは、高難易度の技を繰り出す選手に3Dセンサーを利用して毎秒200万回以上のレーザーを照射し、手足の位置やひねりの回数などを把握して、技の難易度や点数をより詳細に評価できます。
2018年には国際体操連盟が正式に採用を決定し、2019年にドイツで開かれた世界体操競技選手大会でも導入されました。
大会の採点に活用するだけでなく、普段の選手たちのトレーニングの質を高めることも可能です。
また、このシステムは体操競技と同じように技の高度化が進むフィギュアスケートの採用なども考えられています。
ロボットによる審判(野球)
2019年に「米大リーグ機構(MLB)と審判員組合が2024年までの労使協定で、コンピュータによるストライクボール判定を将来的に導入することで合意しました。
現在メジャーでは、多くの球団が球審たちのヒートマップを独自に作っています。ルール上のストライクゾーンとは別に、実際にプレート上のどこをストライクと判定してきたか、傾向を可視化してゲームプランづくりに役立てるためです。
ストライクゾーンはルールで決まっていますが、コールするのは球審であり個々の裁量に左右されているという状態が実情です。
野球の審判は選手の体格によって判定が異なるため、技術的な問題で未完成な部分が否めません。しかし、野球の次のレベルに引き上げるものとして球界に大きな変化を与えることは間違いないでしょう。
スポーツの観戦にAIを活用する事例
スポーツの観戦にAIを活用する事例は次の4つです。
それぞれ紹介していきます。
会場の混雑状況を予測
2021年に開催された東京五輪・パラリンピックでは、会場周辺で発生する混雑に対応するため、人工知能を活用した混雑緩和システムが導入されました。
従来は車両の交通規制などによる渋滞の緩和がメインでしたが、さらに歩行者までも対象とした混雑対策がとられました。
会場周辺の状況をAIが判断して、30分後の混雑状況を電子看板やスマートフォンを使って知らせる仕組みです。観客数を減らすことなく、空いているルートや駅を選択できるようになるため、効率よく混雑が緩和できます。
このシステムが普及することで、特に混雑しそうな場所に警備員を手厚く配置するのにも役立てられるなど、さまざま場面で好影響をもたらしています。
関連記事|正確な予測で無駄を削減!AI予測の活用事例まとめ>>
リアルタイムで勝敗を予想
2019年に電通などの3社がサッカーの試合中に勝敗をリアルタイム映像から予測するシステム「AI11」を開発し、サービスを開始したと発表しました。
AI11は、ボールと選手の動きをもとに対戦チームそれぞれが勝つ確率と引き分けの確率を算出して、パーセントで表示する仕組みです。
東アジアサッカー連盟の主催の国際大会「EAFF E-1選手権」の約480試合分のデータをディープラーニングで学習させることで、勝ち負けを予測するロジックを構築しました。
今後は、コンテンツ配信企業などを通してさまざまな大会に同システムを導入し、観戦体験価値の向上を目指しています。
ドローンでのカメラ中継
ドローンでのカメラ中継は、サッカーやラグビー、スノーボード・スノーモービルのような選手の細かい動きを全体的に見る必要がある競技で活用されています。
選手が一か所に集中することが多い競技やコース全体の様子や位置関係などを把握することで、戦術的な動きや選手が感じているスリルを疑似体験できるようになりました。
また、試合映像の中継だけでなく練習や戦術の考察にも活用されており、今後ますますドローンの活用が期待されます。
関連記事|AI搭載のドローンって何?|できること・活用例・今後など詳しく解説!>>
AIの試合解析による新しい観戦体験
ライブリッツ株式会社は、映像制作ツール「Fastmotion V3」の提供を2021年6月20日より開始しました。
Fastmotino V3は、野球のプレー映像をAIで解析してボールや選手の動作起動をアニメーションにしてデータとともに映像コンテンツを作るサービスです。
観戦者は、これまで感覚的にとらえていた選手の運動能力やプレーの迫力を客観的なデータと視覚的にわかりやすい映像で表現できるため、ファンに新しい観戦体験を届けることができます。
スポーツのマネジメントにAIを活用する事例
スポーツのマネジメントにAIを活用する事例は次の3つです。
それぞれ紹介していきます。
AIによる戦術の立案
近年のバスケットボール業界では、データを見える化することで最適解の戦略を追求しています。
例えば、富士通の女子バスケチーム(レッドウェーブ)が練習する体育館には、8台のカメラが天井に設置されています。
カメラを設置すると、選手全員の動きを記録し、シュートの成功・失敗を分布図で可視化できるようになるため、従来と比較してより細かな分析が可能になります。
このようなサービスが発展すれば自分のチームはもちろん、対戦相手1人1人を分析して対策の戦術を練ることも可能になるでしょう。
選手のコンディションを管理
2019年に株式会社ユーフォリアと日本電気株式会社(NEC)は、アスリート向けコンディション管理サービス分野において実証実験を行い、協業に向けての取り組みを開始しました。
具体的な取り組みとしては、ウェアラブルデバイスで取得した生体情報のデータやアスリート自身が入力した日々のコンディションデータなどを「ONE TAP SPORTS」で蓄積したデータがあります。
その情報をもとに、NECのAI技術を活用したデータ分析により、パフォーマンス向上とケガの予防をサポートする仕組みを構築しています。
この分析データから、アスリートの疲労・熱・ストレス・睡眠の質などを客観的・定量的な値で指標化して提供することにより、アスリート自身のセルフケア意識の向上を図り、パフォーマンス向上とケガ予防を支援します。
また両社は協業に先立ち2019年6月から、VリーグのNECレッドロケッツ、ジャパンラグビートップリーグのNECグリーンロケッツを対象に実証実験を行い、2020年度に事業化を実現しました。
選手のモチベーションを向上
株式会社Life Beamsは、選手のモチベーション向上のために、イヤホン型パーソナルトレーナーシステム「Vi」を開発しました。
Viは、次の6種類の値をバイオセンサーやGPSなどから計測してくれます。
- 心拍数
- 道の勾配
- ペースの変化
- 移動速度
- 移動時間
- 移動距離
これらの機能の特徴は、計測した蓄積・分析した結果を音声としてユーザに伝えてくれるところです。
走行中に聞きたい情報をつぶやけば、「Siri」や「Google assistant」のように答えてくれます。
また、Viには運動の種類に応じたオリジナルプレイリストを作成してくれる機能なども搭載されています。
その他豊富なサポートにより、自分1人で運動するよりも高いパフォーマンスを引き出してくれることが期待できるでしょう。
パーソナルトレーニングにAIを活用する事例
パーソナルトレーニングにAIを活用する事例は次の2つです。
それぞれ紹介していきます。
FURDI – 個人に適したトレーニングを提供するフィットネスジム
FURDIは(ファディー)は、非接触型・女性専用AIフィットネスジムです。
パーソナルトレーナーがユーザー一人一人にあったオリジナルのプログラムを組み、そのプログラムに沿ったメニューを大画面に映るAIトレーナーの指導とともにエクササイズできます。
ファディーには次の3つのポイントがあります。
- 在宅トレーニングが可能
- 運動スコアの表示
- ランキング表示
このように、トレーニングの成果が点数で表示されるため、初心者の方でもゲーム感覚で楽しめるサービスです。
また、専属トレーナーがつくジムでは月額10万円を超えるのも珍しくありませんが、ファディーでは、AIトレーナーと人のトレーナーのW指導を取り入れることで月額6,980円(税抜)を実現しています。
food coach – 食事トレーニングアプリ
food coachは、最強レスリングチームを誕生させた至学館大学が開発した国内初のAI搭載食事トレーニングアプリです。
家庭料理・コンビニ・ファミレスなど、10万件の食事データを搭載しているため、食べた料理を一覧から選ぶと簡単に栄養価が計算できます。
同アプリでは、「体重」「体脂肪」「筋肉量」「競技種目」「ポジション」などの細かいデータをAIが分析し、栄養素の過不足をグラフ化や点数化が可能です。
その他にも、「おやつを捕食として捉え、足りない栄養素の軽食を提案する」「試合前に適した食事と試合後の疲労から回復するための食事を提案する」など、従来のヘルスケアアプリにはなかった機能が詰め込まれています。
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AIによるスポーツのこれから
今後もスポーツにAIの導入が拡大していくことが予想されるでしょう。
AIがプレーや試合結果の予測を行うことで、必要のない動きや戦術が削ぎ落とされるなど、競技そのものを変化させていく可能性もあります。
また、観客は欲しいデータを見ながらエンターテイメント性が増した競技を楽しむことができるため、多様な視点でスポーツ観戦を楽しめるようになっていくかもしれません。
東京オリンピック・パラリンピック開催の影響もあり、スポーツ業界におけるAI技術はこの数年で大きな変化を見せていくでしょう。いずれにしても、すでにAIはスポーツ業界に密接に関わっています。
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まとめ
今回は、スポーツ業界でのAI活用事例を場面ごとに分けて解説してきました。いかがだったでしょうか。
AIと上手く付き合っていくことで、より効率的なトレーニングが可能になります。AI導入によるメリット・デメリットを把握した上で、適切に活用していきましょう。
少しでも、皆さんのAIに対して掴みきれない知識が明確になれば大変幸いです。
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AINOW編集部
CS専攻大学2年生・42Tokyo所属
情報発信を通して自分自身の知見も深めていきたいと思います