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2021.10.12

製造業DXとは – 課題や成功の秘訣を解説、成功事例5選も紹介


労働力不足が懸念される日本では、あらゆる産業分野でデジタルによる変革が重要視されています。そこで注目を集めているのが、デジタル技術を浸透させて、ビジネスを変革させる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

しかし、「自社でどのようにDXを推進すればいいのか分からない。」と思っている企も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、製造業におけるDXの事例を紹介し、推進ステップやトレンドについて解説します。

製造業DXとは

DXとは、ビジネスにおいて、ITが浸透することでよりよく変化させることです。日常活動や企業活動から取得したデータを活用して、デジタル技術を介して生産性の向上や新たな製品・サービスの創出を図り、企業活動を優位に進めることとされています。

製造業において、DXとはものづくりの現場でこれまで培ってきたノウハウを個人の経験値として蓄積していくだけでなく、デジタル化により共有しやすくすることを指します。

それを「リードタイム短縮・生産性向上・品質向上」に生かし、日々変動する顧客や社会のニーズに合わせてビジネスモデルに変革をもたらすことが重要です。

製造業におけるDXの現状と課題

まずは、製造業におけるDXの現状・課題について解説します。

DX人材の不足

DX人材とは、データの重要性を理解し、適切にデジタル技術と組み合わせ、企業を変革していく取り組みができるような人材を表し、企業がDXを推進する上で必要な存在です。

しかし、「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」(2019年5月17日)を実施した独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によると、全体として、いずれの人材についても、「大いに不足」という回答が最も多くなっており、DXの推進を担う人材に対する不足感が非常に強いことがうかがえます。

引用:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査(情報処理推進機構)

この結果から、DX人材の確保・育成が今後の課題となっていることが分かります。

▶【DX人材】 6つの業種、4つのスキル、3つのマインドセットについてはこちらの記事で詳しく解説しています>>

IT化とDX化の混同

DX化とIT化の違いは、デジタル化を「手段」とするか、「目的」とするかにあります。

IT化 業務効率化を「目的」として、デジタル化を進めるもの
DX化  デジタル化を「手段」として、製品・サービス・ビジネスモデルの変革を進めるもの

つまり、IT化はDX化を実現する際の手段の1つです。

▶DX化とIT化の違いについてはこちらの記事で詳しく解説しています>>

▶日本におけるDXの課題についてはこちらの記事でも詳しく解説しています>>

適切なIT投資ができていない

IT投資においては、ビジネス全体の変革や人材育成、業務効率化のため、環境の変化に合わせて企業を変革する「ダイナミック・ケイパビリティ」(正しいことを行う能力)を重視することが大切です。

与えられた経営資源をより効率的に利用して利益を最大化するためにIT投資を進めることも大切ですが、旧来の基幹システムや保守が目的になりがちになってしまいます。

そのため、企業自体を変革するためにIT投資をすることが重要となります。

製造業でDXを導入するメリット

では、製造業でDXを導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここではメリットを2つ紹介します。

  1. コスト削減
  2. 生産性の向上

それぞれ解説します。

コスト削減

1つはコスト削減です。

今まで人が行っていた作業を自動化することで、人的コストを削減できます。例えば、目視で確認していた作業が機械で対応できるようになる、ITツールでより迅速にデータの収集や分析もできるようになるなど、これらの業務に割いていた人件費やシステム費を削減できるでしょう。

また、削減できたコストは他の分野の予算として使うことができるようになることもメリットであると言えるでしょう。

生産性の向上

もう1つは生産性の向上です。

DX化によって在庫管理や受注・出荷の記録などの管理業務を効率化できます。また、従来は人が行っていた業務を自動化すれば、人為的ミスも必然的に減り、トラブルが発生した時も迅速に対応できるようになります。

これにより、不要なメンテナンスコストの削減や、トラブルの防止にも繋がっていくでしょう。

製造業で求められていることとは?

ここからは、製造業で求められている「ノウハウのデジタル化」と「デジタルマニュファクチャリング」について解説していきます。

ノウハウのデジタル化

市場で競合優位性を得るためには、自社の商品に付加価値を付ける必要があります。そのため、新しいの商品の開発や商品の品質向上が重要となるでしょう。

しかし、少子高齢化による労働力不足から、新しい製品やサービスの立ち上げは困難な状況です。

そこで、手作業で行っていた業務の自動化や、ノウハウのデジタル化が求められています。デジタル化が進めば、効率的な生産が可能となり、新たな価値の創造が目指せるでしょう。

デジタルマニュファクチャリング

デジタルマニュファクチャリングとは「製造工程のデジタル化」を指します。

製造データの収集・分析を行い、技術を持つ作業員にしかできなかった人的作業を、機械に代替させます。これにより、業務が効率化され、生産性の向上が期待できるでしょう。

関連記事|製造業のDX化とは?メリットやデメリットを解説>>

製造業DXにおける3つのトレンド

ここからは、製造業のDXにおける3つのトレンドを紹介します。今回紹介するトレンドは以下の3つです。

  1. サービス化
  2. プラットフォーム化
  3. スマートファクトリー化

それぞれ解説していきます。

①サービス化

製品の提供だけでなく、製品を使ったサービスまでを提供するという新たなビジネスモデルが注目を集めています。製品にサービスという付加価値が付き、競合優位性が確保できます。

②プラットフォーム化

プラットフォームとは、ITシステムの基盤であり、「システムやソフトウェアが稼働する環境」を指します。IT技術を用いたプラットフォームの構築により、手間や時間が削減された効率的な生産が可能となります。

③スマートファクトリー

スマートファクトリーとは、「IT技術によって、効率化された生産性の高い工場」を指します。AIによるデータの収集・分析により、製造ラインが効率化されます。

データを用いた効率的な生産により、不良品や使用する材料の削減が可能になります。これにより、品質の向上・コスト削減が実現するため、顧客満足度も高製品を提供できるでしょう。

また、製品提供後のデータを活用すれば、顧客のニーズに合わせた製品の提供やアフターサービスの充実など、更なる付加価値の提供も期待できます。

製造業におけるDX推進の6ステップ

ここからは製造業におけるDX推進6ステップを紹介します。

  1. 現状を把握する
  2. イメージを明確にする
  3. 体制を整備する
  4. 業務をデジタル化する
  5. データを活用してニーズを反映させる
  6. サービスの質の向上/新たな価値の創出を目指す

それぞれ解説します。

①現状を把握する

まず、DX化を始める前に現状を把握しましょう。

やみくもにDXを導入しようとしても、現状にそぐわなくなってしまいます。そのため、まずは現状を把握し、何を解決したいのかをはっきりさせることが大切です。

②イメージを明確化する

現状を把握したら、DX化のイメージを明確にします。具体的な課題の解決方法を考えることで、取り組むべきDXの戦略が導き出せます。

そして、最も重要なことは明確化したDXのイメージを社内で共有することです。DXは個々の部門が独立して取り組んでしまうと効率が悪くなる可能性があります。そのため、経営陣が中心となり各部門とコミュニケーションを取り、DX推進への取り組みをまとめるといいでしょう。

③体制を整備する

体制を整備することも必要です。具体的には以下の4つに取り組みましょう。

  • DX推進のための専門部署を新設する
  • 既存システムを統括するIT系の部署の協力をとりつける
  • 各部署から必要予算を確保する
  • 社内の人材で賄えない場合は外部人材の採用を検討する

④業務をデジタル化する

デジタル化は、Web上のアプリ・クラウドサービスを積極的に導入する段階です。アナログで実施していた業務から、デジタルツールを利用することで、データが蓄積されます。

⑤データを活用してニーズを反映させる

デジタル化により蓄積したデータを活用しましょう。データの活用による業務の効率化で、コスト削減・生産性の向上が期待できます。

部門ごとにデータの活用による業務の効率化が進めてから、各部門で蓄積・活用していたデータを全社に活用するための基盤を構築します。

また、ニーズや意見など顧客の情報を集約・分析し、製品やサービスに反映させましょう。競合優位性を確立するために重要なのは、ユーザ(消費者)視点を忘れないことです。

⑥サービスの質の向上/新たな価値の創出を目指す

業務のデジタル化によって業務が効率化され、人的業務が軽減すれば、サービスの質の向上に力を入れられます。

また、データを活用した精度の高い分析は顧客のニーズや利便性を拡充し、サービスの「使いやすさ」を追求することで、事業やサービスが本来の姿と異なる特性を持ち合わせ、新たな価値創出に繋がります。

▶DX推進とは?|指標や課題・企業事例をガイドラインに沿って解説した記事はこちら>>

製造業でDXを成功させる秘訣2つ

ここからは、製造業でDXを成功させるポイント、「部門間の連携/全社への拡大」と「DX人材の育成」について紹介していきます。

①部門間の連携/全社への拡大

DXの導入が一部の部門だけに止まってしまい、会社全体としてDXが実現できていないケースが散見されます。DXの導入による企業の変革には、多くの時間と労力がかかります。

まずは、自社の状況を把握し、小規模な施策から取り組みましょう。徐々に対象範囲を広げていくことが確実な進め方です。部門間での連携など横断的な体制を構築し、全社でDXの実現を目指しましょう。

▶DXの進め方|参考にしたい3つの成功事例や推進のポイントはこちらで詳しく解説しています>>

②DX人材の育成

DXの推進には、多くのエンジニアもマネジメント人材が必要とされ、DXを担う人材が欠かせません。しかし、DX人材は不足しており、DX人材の十分な確保は困難です。

そのため、自治体では職員のDXに関する知識を深めるといった、DX人材の育成が必要となるでしょう。

▶DX人材の育成方法や育成のポイントを詳しく知りたい方はこちら>>

製造業のDX成功事例5選

今回紹介する製造業のDX成功事例は以下の5つです。

  1. 富士通株式会社-FTCP
  2. トヨタ自動車株式会社-工場IoT
  3. ヤマハ発動機株式会社-経営目線のデジタル改革実行
  4. ダイキン工業株式会社-工場IoTプラットフォーム
  5. 株式会社今野製作所-プロセス参照モデル

それぞれ解説していきます。

富士通株式会社-FTCP

<抱えていた課題>

  • 製品開発:製品の多様化、カスタマイズへの提供、納期の短縮、製品の高度化など
  • 製造現場:ノウハウの伝承、人材不足
  • 全社  :調達・管理コスト削減、災害対応の強化、事業部門間の連携強など

<取り組み内容>

概要
  • 開発プロセス変革のためのプラットフォーム
目的
  • 製品開発におけるノウハウ共有やリアルタイムのやり取り円滑化
取り組み
  • 人に依存しないものづくり/必要なツールを作り/プロセスのコンカレント化を富士通グループ全体の活動として推進
ポイント
  • 開発期間短縮のため、一部でオープンソースを活用
  • FTCP上のツールを継続的に活用するため、「ルールの整備/製品開発フローの整備/の事業部毎の監査・評価、全社的な比較」を実施

<成果>

  • 製品開発プロセスの手戻り減少、品質向上、納期短縮を達成
  • 設計段階での不具合抽出、製造しやすい設計の追求が可能に
  • 設計〜製造において、業務のデジタル化による負荷軽減

トヨタ自動車株式会社-工場IoT

<抱えていた課題>

  • 製造データ・顧客データの技術開発へのタイムリーなフィードバック

<取り組み内容>

概要
  • 3D CADデータなど既存のデジタル化データが一元管理できる、工場と現場などの部署間にまたがる情報共有基盤
目的
  • 「現有資産の最大有効活用」:すぐに着手できるよう、既存の設備を活用
  • 「拾い切れていない現場の困りごとをAIで解決」:データ分析の効率化
  • 「FA機器類からのデータ授受」:ログデータとして現有資産に保管されたデータの有効活用
  • 「セキュリティ対策」:外部と接続するIoT工作機器などへの対応
  • 「IE化されていない設備の標準化」:インターフェースの標準化
取り組み
  • 工場IoT:工場横断の共有プラットフォームを2~3年かけて段階的投資
  • 製造:各社員が小規模なテーマを立案・実行し、効果を出すというボトムアップの取り組みを行い、人材の育成も併せて進めた
ポイント
  • 十分なセキュリティ対策された環境を構築
  • データの収集や蓄積において、無駄なデジタル化をしない
  • 組織的な教育支援、BI・AIなどの便利ツールをプラットフォームに用意

<成果>

  • 特定の部門から各部部門へ取り組みを広げ、トータルで費用対効果を上げた
  • 品質向上や商品力向上など付加価値を向上させるデジタル化に着手

ヤマハ発動機株式会社-経営目線のデジタル改革実行

<抱えていた課題>

  • 売上拡大に対する経営目線のアプローチの欠如
  • 海外展開する工場・支店が、個別最適化されており非効率的
  • 顧客ニーズの把握やターゲットに合わせた商品の展開が不足

<取り組み内容>

概要
  • 経営目線による「既存のビジネスの効率化」「未来のビジネスの創出」への取り組み
目的
  • 自社の売上拡大を最終ゴールとした、デジタル技術を使った改革
取り組み
  •  グローバルにおける全体最適の視点を持った戦略的アプローチによる改革を実行
  • 4つのテーマでPoCを実施しビジネス 創出のためのテーマ創出と効果の確認を実施
ポイント
  •  自社でデータ分析のトレーニングを実施し、事業の目的に対し適切な分析手法を考えられる人材を育成

<成果>

  • デジタルツールの導入により、エンジニアリングチェーンの省人化、効率化を実施
  • デジタル技術を使ったPoCを実施し、不良率低減

ダイキン工業株式会社-工場IoTプラットフォーム

<抱えていた課題>

  • 製造コスト削減と製品差別化による競争力強化を図る
  • サプライチェ―ンの最適化(生産の効率化、ニーズに対応した生産計画・在庫管理)
  • エンジニアリングチェーンの最適化(要求分析・システム設計・コンポーネント設計)

<取り組み内容>

概要
  • 工場のすべての設備をネットワークで繋ぎ、情報収集の標準化を進めるための情報基盤
目的
  • IoT技術で実現した「リアルタイムのデータ授受」を活用
取り組み
  • 「製造現場データの発掘→データの収集と統合→データの見える化と分析→顧客への価値提供」のサイクルを構想
ポイント
  • 工場内に「工場IoTプロジェクトセンター」を設置し、データに基づいた議論や判断を行う
  • 日本と海外拠点におけるリアルタイムの生産データ共有の実現など、グローバルな体制を構築

<成果>

  • 生産状態の可視化・生産計画を最適化により、ロスを低減
  • デジタル化や工場の生産シミュレーションなどを通して、予知・予測が可能に

株式会社今野製作所-プロセス参照モデル

<抱えていた課題>

  • 社内の各組織において、個別受注への対応力不足・負荷集中・納期遅れが相次ぐ
  • 事業規模が小さいが、多様な生産形態が混在するなど業務プロセスの複雑化

<取り組み内容>

概要
  • 自社の業務プロセスや、エンジニアリングプロセスにおける社内連携体制について可視化したモデル
目的
  • 業務プロセス全体をフロー図化し、デジタル技術活用における具体的な取り組みに繋げる
取り組み
  • 業務プロセスの分析ツールを活用し、業務を可視化
  • 業務プロセスを最適化するため、必要なシステムツールの小規模な開発を実施
ポイント
  • 外部の専門家に相談し援助を受けるなど、外部と積極的に交流
  • 外部の援助を受けつつ自社内の人材の適性を見極めながら進める

<成果>

  • 自社の生産形態を含めた整理により、既存事業の位置づけ変更・着手できていないビジネスへの取り込みが可能に
  • 部署間に人力でデータを転記するプロセスを知り、必要なデータの自動流用を改善
  • 事業の高付加価値化に向けて製品設計・生産設計へ注力するきっかけに

参照:製造業DX取組事例集(経済産業省)

▶DXの成功事例はこちらの記事で30個まとめて詳しく解説しています>>

DXの支援サービス

DXには多くの時間とコストがかかります。「自社でDXに取り組むのは大変」といった悩みを抱えていませんか?

そのような悩みを抱える企業におすすめなのが「DX支援サービス」です。国や自治体による支援から、企業が行う支援サービスまで様々なサービスが充実しています。

▶DX支援企業11社を紹介|選定基準や企業の特徴、依頼する際の3つのポイントなども解説!>>

まとめ

社会や市場の変化に対応するため、あらゆる産業分野でDXが求められるのと同様に、製造業でもDXの必要性が高まっています。

今回紹介した事例や推進方法を参考にDXに取り組んでみましょう。新たな価値の創出や生産の効率化による付加価値の向上は、市場での競合優位性獲得に繋がるはずです。

DXは、焦らず確実に進めることが大切です。今ある課題や注意点の把握から始めるのがおすすめです。

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