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2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響や、DXへの注目の高まりなど、AIを取り巻く環境は急速に変化しています。
このような状況はVUCAとも呼ばれます。VUCAはVolatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況を指します。
この状況の中、さまざまな企業が働き方やビジネスモデルなどの組織の変革に迫られています。
この記事では、AI専門メディア「AINOW」の情報発信を通して感じた2021年のAI分野の動きについて、お伝えします。
AIの動向についてはこちらでも解説しています。
進化し続けるAI!各業界のAI最新動向まとめ>>
目次
「DXの中のAI」という文脈が強まった2021年
2021年のAIは、「DXの中のAI」として企業などで活用が進んだ1年だったといえるでしょう。その背景やポイントを解説します。
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DXの台頭で企業が主体となって進めるデジタル化が進んだ1年
2010年前半からAI技術が台頭し、2010年代後半には社会的活用のニーズが高まりました。しかし、AIを導入する環境にフォーカスすると、ソフトウェアの基盤の未整備や、データの不揃いなど、以下の図におけるレイヤーA、レイヤーBにあたるAI活用に必要なインフラが整っていない状態が目立っていました。
2020年までは、AIの導入がメディアでも注目されつつも、各社が一部の部署の限定した課題に対してAIを適用するケースも多く、局所的な導入が進んでいたと言えます。
しかし、2020年以降からの新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リモートワークの環境を整備する企業が増えました。また、RPAなどを活用してレイヤーA内の業務やプロセスをデジタルで代替する企業が多く生まれました。
また、2021年9月にはデジタル庁が発足し、国全体のデジタル化が進められるようになったことで、企業だけでなく行政でもDXが急激に推進されるようになっています。
特に地方自治体では、新型コロナウイルスの感染拡大下で増加する住民への対応業務の負荷を軽減するために、チャットボットやAI-OCRの活用が進んでいます。下図のように自治体におけるAIツールの導入は、文字認識・音声認識を中心に年々活用が進んでいます。
このように、2021年はAI技術だけに社会の目が向けられたのではなく、ソフトウェア全般に注目が高まった1年だったと言えるでしょう。これにあわせて、AI分野でもニッチな課題を解決する垂直型のSaaS形式のサービスを展開する企業も増加しました。
例えばPKSHA Technologyは「AI SaaS」企業への転換を明らかにしました。同社は、SaaSの市場が拡大していることに着目し、SaaS事業の拡大に向けて投資を加速させています。
PKSHA Technologyの定義する「AI SaaS」とは、AIによって機能が拡張した人の知覚能力を持つAdvanced SaaSであり、ニューラルネットを使うことで複雑な内部処理を可能にしています。
一般的なSaaSよりも業務の自動化・高度化のレベルが高く、現在、顧客接点の領域で「AI SaaS」の利用が増加しており、顧客基盤を拡大しています。同社は今後、多種多様な業界へ「AI SaaS」プロダクトを提供し、成長を目指しています。(※PKSHA Technology「事業説明資料」(2021.12.27)を参照)
小澤
DX人材の重要性の高まり|政府や協議会の支援がカギに
そして、DXの流れを受けて人材領域にも大きな変動が起きています。
これまで機械学習モデルを構築できる、いわゆる「AI人材」の必要性が叫ばれてきましたが、今年はその上段である「DX人材」に注目が集まり、多くの企業でDX人材の育成の取り組みが始まりました。
例えば、企業のマーケティング人材育成をサポートするGrowth X社が提供する「Growth X AI編」は文系であってもAIの基礎をわかりやすく学べるカリキュラムを提供し、デジタル人材の育成をサポートしています。座学だけでなく、チャット型アプリ内でAI企画ワークショップなどのプログラムが用意されており、実際の現場で知識の活用や企画立案をできる実践力のある人材の育成が可能です。
今までのように“AIに関わる人材”だけではなく、“企業のデジタル化を進め、競争優位性を高められる人材”の重要性が高まっています。
岸田首相は2021年11月、デジタル人材の育成に向けて3年間で4000億円の政策パッケージを創設することを発表しています。政府のバックアップによってデジタル人材の教育はより強化されていくでしょう。
また、日本ディープラーニング協会とデータサイエンティスト協会、IPAの3団体によって「デジタルリテラシー協議会」が設立されたこともDX人材の育成の士気が高まった2021年における大きな流れの1つです。デジタルリテラシー協議会では、IT・データサイエンス・AIを使うための基礎的なスキル・ 知識・マインドを「Di-Lite」と定義し、デジタル人材の育成を目指した教育環境の整備や啓発活動を行なっていくとしています。
▼JDLA特別顧問 西山 圭太氏によるデジタル人材に関する講演のレポート記事はこちら
AINOWで2021年に最も読まれたのは「DX人材」をテーマにした以下の記事でした。DX人材を業種、スキル、マインドセットに分けて解説している記事です。ぜひご覧ください。
▼DX人材に関してくわしくはこちら
日本語圏における自然言語処理モデルの開発が大きく進展
AI分野の技術的な動向として2021年は、大規模言語モデル(汎用言語モデル)などの自然言語処理領域で技術進化が進んだ1年でした。
2020年にアメリカの非営利団体であるOpenAIが発表した「GPT-3」はその高度な性能で英語圏では話題を集めましたが、現在のGPT-3は日本語の生成能力は英語に比べ劣っています。
▼GPT-3に関して詳しくはこちら
一方、日本語圏でも大規模言語モデルの開発が進んだのが2021年でした。
例えば、rinna株式会社が「GPT-2」とGoogleの「BERT」を改良した事前学習モデル「RoBERTa」を2021年8月にオープンソースソフトウェアとして公開したことが注目されました。
「GPT-2」は、予測したい単語より前の単語を考慮して次の単語を予測する言語モデルです。これに対して「BERT」は、予測したい単語の前の単語だけでなく後の単語も考慮して予測を行うことができ、公開された「RoBERTa」はBERTより高い性能が報告されています。文章生成や文章分類、質問応答など多様なタスクに適用することが可能です。
また、LINE株式会社が現在開発を進めている大規模汎用言語モデル「HyperCLOVA」の開発を急速に進めています。
この汎用言語モデルは、1750億以上のパラメータと、100億ページ以上の日本語データを学習データとして利用予定です。これは新聞に例えると、新聞紙面にある情報の約2760年分という膨大な情報量です。
この超巨大言語モデルの実現により、新しい対話AIの開発や検索サービスの品質向上など、LINEのサービスの活用のほか、人間が行うような文書作成や創造活動、自然対話ができるようになります。
▼LINEの日本語に特化した超巨大言語モデルの開発について詳しくはこちら
東京大学 松尾豊研究室発のAIスタートアップ、株式会社ELYZA(イライザ)はBERT以来の汎用言語モデルを活用した日本語AIエンジン「ELYZA Brain」の開発に成功し、「人間を超える」日本語分類精度を実現しています。
AINOWではストックマーク株式会社と協力し、自然言語処理についてイラスト図解する記事を公開しています。あわせてご覧ください。
小澤
日本語圏で汎用的な言語モデルの開発が進むことで、メールの送受信や企画書の作成、日程調整の自動化などが実現するかもしれません。これにより根本的な業務効率化が実現する可能性が高まります。一方で、人間の言葉の解釈には曖昧性が伴うなど、まだ自然言語処理技術が超えるべき壁は存在しています。今後の動きにさらに注目して情報発信していきたいと思います。
企業の持続可能性に注目が|同時にAIガバナンスが重要に
2021年、社会ではSDGsへの注目が高まると同時に、企業をとりまく環境が大きく変化しました。特に重要な変化が、企業が売上だけを追求するのではなく、ステークホルダーへの提供価値が重視され、企業経営の持続可能性が評価されるようになった点です。
SDGsに関連して機関投資家を中心にESG投資が盛んになっています。ESG投資によって環境や社会、ガバナンスに対する企業の取り組みが重視されるようになりました。
この中でも、AIに関わる重要な項目がG(ガバナンス)です。
現在、広く活用が進んでいる機械学習技術は膨大なデータを学習し、その傾向を自律的に学ぶことで、精度の高い画像認識や音声認識、予測が可能になっています。一方で、機械学習モデルの学習に使用する膨大なデータは、人間が生み出したビッグデータです。人間が生み出したデータの中には、無意識的にもバイアス(偏見)が反映されてしまいます。
これにより、機械学習モデルの普及が進むと同時に、AIが人間の差別意識を学習してしまったり、誤った判断によって危険を招いてしまう可能性が指摘されています。
今までのAI分野では、ビジネスで利益をいかに生んでいくのかの視点が重視されていましたが、いかにして公平で倫理的なAI活用を進めるのかの注目が高まったのも2021年の特徴です。
DXが浸透して、レイヤーA,Bの整備が進む中で、AIの活用がさらに進んでいくことが予測されます。このタイミングで、AIの透明性や何か問題が発生した際に、責任の所在をどのようにするのかなどの議論が必要になってきます。
2022年もAIとガバナンスの議論の重要性は一層高まっていくでしょう。
AINOWでは、AIガバナンスに関して国際的に議論をしている東京大学の江間 有沙氏や、デロイトトーマツグループ執行役員の森 正弥氏のインタビューを公開しています。ぜひ読んでいただきたいです。
▼江間 有沙氏に「AIを取り巻く社会課題」や「海外との議論の違い」についてインタビューした記事はこちら
▼森 正弥氏に「AI活用とガバナンスの重要性」についてインタビューした記事はこちら
さいごに
2021年は簡単にまとめれば、AIブームが落ち着いた1年だったといえるでしょう。あわせてDXという広い概念にAIが内包され、企業のデジタル戦略の中でAIを見据える重要性が高まりました。
AI分野に限定して言えば、自然言語処理技術などの既存の機械学習技術の進化だけでなく、次世代のAIの技術進化が求められているといえます。2021年、AINOWは人工知能学会と積極的に連携し、AI分野の研究領域をマッピングしたAI Mapの発信や、人工知能学会誌とのタイアップなどを積極的に行ってきました。
AINOWは、現在のAIやDXに関わる領域の情報を整理するだけでなく、AI分野の次を見据えた情報発信にもさらに取り組んでいきます。